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犬士3話

第3話[秘密-1]


「さき姉ちゃんって、どういう仕事してるの?」

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チュン、チュン…
「ふわぁっぁ…」寝不足気味の頭で、さきは昨日のことを思い出す。

─昨日は…そうすけの服繕って、布団が無いから一緒に寝…!?
「!!!」
がばっと飛び起きる。
だが…傍らで一緒に寝ていた少年の姿は…無い。
「あ、れ…?」

─夢な訳無いよな…

枕もとには、徹夜で繕った少年の服が、きれいにたたんで置いてあった。
「どこ行っちゃっ…?」
ふと、さきの鼻先に温かな匂いが。
─味噌汁?
その匂いは、まさにさきの家の台所からただよってきていた。
「まさか…?」
台所へとたっと駆け出すさき。

「あ、さき姉ちゃん、おはよう!」
案の定、台所で朝飯を作っていたのは…そうすけだった。
背が届かないからか、外に転がっていた木箱やらを足場代わりにして、炊いていた味噌汁を味見していた。
「もうちょっとでできるから、待っててよ」
「…ってお前、米とか味噌とかどうやって?」

あえて口には出さなかったが、さきは家事が一番の苦手だ。
裁縫とか刺子なんかは得意なのだが、如何せん一人暮らしの身。
自分の食事を作ったり、身の回りを掃除したりというのがからっきし苦手。
そんなもんだから、必然的に飯云々は隣近所からおすそ分けしてもらっている毎日。

故に、この家に米も味噌も有るわけが無いのだ。

「お隣のおばちゃんがくれたんだ、お米とお味噌ね」
「え…?」寝ぼけた頭の中は、未だに分っていない。
「それと、向かいの人が目刺しくれたんだよ」
「あ……」

茫然自失のさき。
と、突然、横から黒い煙が。

…ぷすぷす

「わ!魚焦げてる!姉ちゃん早くそれどけて!」
「あ、わわっ!」

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「「いただきまーす!」」
ちょっと焦げた魚、それに炊き立てのご飯と熱い味噌汁で2人の朝食が始まる。
まずは味噌汁をずすっと口に…
たちまちさきの撫が変わる。

「うめぇ!!!!!」
「よかった、姉ちゃんの口に合ったみたいで」

─こりゃお隣の作った味噌汁よかうめぇや
と言おうとしたが、さきは思わず口ごもる。
壁越しに聞こえたらやばいので。
「で、父ちゃんも飯が下手でさ、おいらが毎日作ってたんだ」
「そっかぁ…」目刺しを頭からぼりぼりかじりながら、さきは少年の話を聞いていた。

自分が生まれてすぐに母は死んでしまい、顔は全く覚えていないこと。
父と2人の放浪生活…ボロ寺で寝泊りしたり、畑から大根盗んで追いかけられた事。
だから…

「だから…死んだお父ちゃんにどやされやしないかな、って…」
ふと、少年の顔が暗くなる。
「何でだ?」
その言葉に、少年は首を横に振った。
「ううん、だから、おいらこの家で飯でも洗濯でも掃除でも何だってやるからさ…」
「あのなぁ、別にお前に恩返しさせる為にこの家に置いてやってるわけじゃないぞ」
「でも…」
さきは、箸をお膳の上に揃え、少年を見据えた。
「そういうことは気にすんな、気に入らないことがあったら俺に何でも言え、それに…」
「…それに?」
「お前が気に入ったんなら、ここに…ずっといたっていいんだから」
「う…ん」

その態度に業を煮やしたのか、さきは膳から身を乗り出し、少年の頬を両手で思い切り引っ張る。
「あわはひゃ!なにひゅるの!姉ひゃん」
「そーゆーうじうじした態度!俺!は!一番!嫌い!何!だ!よ!!!」
じたばたひっくり返るそうすけ、なおも馬乗りになって引っ張り続ける。
「ひゃめて〜!痛ひ〜!」
「オラオラ!素直に分りましたと言え〜!」
「わ、わひゃり、まひた…」
「全く…」
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「じゃ、俺は夕方くらいになったら戻るから、それまで耕吉のところで勉強してるんだぞ」
食事の後、いそいそと着替えるさき。
そうすけも一緒になって着替える。
無論こっちは昨日話した耕吉の手習いへ行くのだが…さきの「行く先」に関しては皆目見当がつかない。

「さき姉ちゃんって、どういう仕事してるの?」
思い余って、そうすけが口を開く。
「さき姉ちゃんだって侍でしょ?一体どういう仕事してるの?」

さきは、ちょっと考え込んでしまった。
「う〜ん…」
「う〜」
「……」
……………
「秘密だ」

「秘密?」きょとんとした目でさきを見つめる。
「あぁ、一応は俺も侍だけどな、でもお仕事はひ・み・つ」
「ずるいよ〜お互いに隠し事は無しにしようよ」上目遣いに口を尖らかすそうすけ。
「まぁな、変な仕事じゃないことだけは確かだ、一応世のため人のためって感じかな?」
「ンもぅ…」

「じゃ、行こうか」
さきが玄関で草履を履いていると、そうすけは勢い良く裸足のまま外へ駆け出た。
「おい、履物…」
「え?」
─あ、そうだったか…

さきは自分の履いていた草履を少年に渡すと、自分は戸棚から大きめの下駄を取り出した。
─これ、鼻緒が赤いんだよなぁ…ちょっと恥ずかしいけど

案の定、そうすけはその下駄を冷めた目でじーっと見つめていた。
「…何だよ一体?」
「いや、その…」
「隠し事は無しだぞ、そうすけ…」

「姉ちゃん…赤い鼻緒って…似合わないね」

その瞬間、手に持った下駄がそうすけの頭にヒットした。




「全く…」

「いたたた…ねえちゃん本気でぶった…」
第3話[秘密ー1]おわり。

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