犬士小説 第1話
─その昔、奥羽の山中に「犬人」なる民が居たという。
犬の顔と毛並みを持ち、人と同じく二本の足で立って生活していたその民を、当時の民衆たちは、ともすれば山賊にも等しきその者等に接触、
或いは力によって制することにより、彼らと交わり、言葉を教え、遂には一流の兵として育て上げていったと記されている─
そして時は流れ、太平の江戸の世。
長き戦と交わりによって人と犬人との垣根が無くなりつつあるこの時代、中には武士として生きる者もおり、彼らを人は「犬の武士・・・犬士」と呼ぶのであった・・・・
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相模の国に程近い、地蔵が並ぶ峠道。
「ふう、やっと見つけた・・・」
深いため息をもらしながら、その犬士は視線の先にある茶屋へと足を向けていた。
彼(?)が言うのも無理はない、江戸へと帰るこの峠道、途中で足を休める宿屋も茶屋も殆ど皆無に近いからである。
今の景気悪な世の中、武士だ犬士だといっても、実際定まった職にありつけるのはほんの一握り。
今日は西、明日は東と、雇われ仕事で駆け回る武士もかなりの数に上るのだ。
《やぐら茶屋》と書かれた赤いのぼりのもと、ぽかぽかと日のあたる縁台によっと腰掛ける。
「いらっしゃいませ〜」のれんの奥からからころと小気味いい下駄の音を響かせてやってきた。
歳は二渚ホ前後か、利発そうな娘だ。
「なんにいたしま・・・」娘はその犬士の姿を見るや、一瞬歩みを止めた。
驚くのも無理はない。
犬士のその特異な風貌は、一目見れば忘れられぬほどであるからだ。
左頬に刻まれた庶囂掾Aそれに右目を覆った包帯の長さは鉢巻のそれを彷彿とさせる。
それとなにより・・・腰にさした二振りの刀であるが、一方には何故か御札と思わしき物がびっしりと唐轤黷トいる。
それに、戦場でたった今血を吸ってきたかの様に真っ赤にそまった柄と鞘・・・
そこいらの武士共とは明らかに違う気を撒いているのだ、この犬士は。
「ん・・・?あぁ、俺のこのなりか」犬士は怯えている娘に細やかな笑みを見せた。
「大丈夫だ、あんたを獲って食やぁしないよ」ぷっと苦笑をもらす。
「あ・・・と、すいません、犬士さん見るのはめったにないもので
犬士のちょっとした冗談に、娘は怯えた心をほぐされた様だ。
懐から小銭を出し、じゃらっと縁台に置く。
「団子と・・・あと、酒はあるかい?」
「あ、ええ、今お持ちしますね」
娘は先ほどと変わらぬ足取りで、奥の台所へと向かった。
また懐を確かめる。
(参ったな・・・もう路銀が無ぇ・・・早いとこに江戸へ戻らんとこっちが先に倒れちまうわ)
考えあぐねているうちに、娘が小皿に叙{くらいのみたらし団子と酒瓶を持ってきた。
「おいおい、俺ぁこんなに団子も酒も頼んじゃいねぇぜ」
ちょっと面食らった犬士は、両手をぶんぶん横に振った。
「いいんですって、さっき犬士さんに変な思いさせちゃったお詫びと思って受け取ってくださいな」
(変な思い・・・あぁ、俺の風体か)
恥ずかしげにぽりぽり頭を掻き、一本目の団子を頬張る。
「じゃ、お言葉に甘えまして・・・」
(ま、いいか・・・これでどうにかしのげるし)
遥か遠くで雉の鳴き声が聞こえる、のどかな昼下がりであった。
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「すまん、馳走になった」
程よく腹のふくれた犬士が茶屋を出ようとしたその時。
「父ちゃんのかたき!」
犬士の鼻先に突きつけられた長槍、その先には、恐らく書繧サこそこであろうと思われる少年がわなわなと震える腕で高ヲていた。
薄汚れた身なりからして、相当長旅をしてきたに違いない。
「・・・何の真似だ、一体?」特に驚かず、冷静に彼は応えた。
「よもや忘れたとはいわせないぞ!1年前においらの父ちゃんを殺した分際で!」
「殺・・・した?」きょとんとする犬士。
「そうだ!無我手百般流剣術師範の父ちゃんを一刀のもとに殺した・・・隻眼で宝剣を持った犬士!貴様だ!」
涙混じりの声で少年は答えた。
(ここで立ち回ったんじゃ娘の為によくないな・・・)
陽気が良かったのか、幸いにも茶屋の娘は奥でうとうととお盆を抱いたまま眠りこけている。
「ここじゃ店の人に迷惑になる・・・どこか離れた場所でゆっくりと訳を聞こうか・・・」
「に・・・逃げるんじゃないぞ・・・」
すっくと立ち上がった犬士だが、以外にも、少年はかなりの小柄だ。
(自分の小さな身体を補う為の長槍か・・・)
犬士は改めてゆっくりと少年の姿を確認した。
彼と同じ様な袴が、ぼろぼろなうえにあちこち繕っている様がよく分かる。
足には何も履いておらず、泥にまみれ、傷だらけのはだしの足がこの少年の辛い旅を物語っていた。
「・・・・・」
「な・・・なにじろじろ見ている!」少年はきっと犬士を睨みつけた。
「いや・・・何でもない」
しかし・・・いろいろ記憶を巡らせたが思いつかない。
それこそ用心棒稼業や盗賊退治などの仕事は山のように引き受けたことはあるが、今まで人を殺めたことは一度もないからである。
無論、この刀、向かう相手に手傷を負わせたこともあるにはあるが、致命傷にさせたこともないし。
(勘違い・・・?にしちゃ、俺のこの風貌じゃ間違いも起こりえない・・・が)
犬士は茶屋から歩いて行って30分ほどの所の、薄の穂がたなびく原っぱで歩みを止めた。
「さて、聞かせてもらおうか?」
別にこの少年を斬る気は毛頭無いのだが、何か気にかかる・・・
「くっそぉ・・・やったことを忘れた気か!!」
「・・・・・・・・」
犬士なんぞは全国探せばそこそこいるはずだが、自分のような風体、恐らく二人といないだろう。
「抜け!勝負だ!!!」
「しゃあねぇな・・・」
犬士は腰に下げた刀にすっと手をかけた、その瞬間!
「やーっ!!」少年の槍の切っ先が眼前に迫る。
「おっと!」しかし難なく・・・見切った。
(こいつ・・・真剣だな)
かわしたものの、槍は連続して犬士を連続して襲う。
「はっ!やっ!たぁっ!」
確かに槍の素早さは大したものだ、しかし・・・彼は恐らく実戦は体験したことがないだろう、動きが単純すぎる。
「どした?この程度じゃうちの庭先の柿の実だって貫けねぇぞ?」
犬士は避けつつも抜いた刀で、少年の槍をすらっと払いのける。
「!!!」
一瞬のうちに、持っていた槍は遠くへ弾き飛ばされた。
「いい腕してるけどな・・・まだまだ修行が足らねぇぞ」
「くっ・・・!」みるみる少年の顔が紅潮する。
突然、少年はその場にどっかとあぐらをかいた。
「負けだ・・・殺せ!!」
「へ???」突然のことに呆気にとられる。
「槍を封じられた以上負け同然!さっさと斬れ!」
握り締めた拳はわなわなと震えていた・・・
(はぁ・・・直情だなぁこいつは・・・)
ため息混じりに、犬士も少年の前にどっかと座りこむ。
「なぁ・・・まだ子供だろうがお前、斬れだの殺せだの簡単に言うんじゃない」
「だ・・・だけど・・・お前は・・・!」
いつの間にか少年はぽたぽたと大粒の涙を流しはじめていた。
犬士は少年の顔に手を添え・・・にっこりと微笑んだ。
そう、女性の顔として。
「天の神さんに誓って言うがな・・・俺ぁ今に至るまで人を殺めたことなんて無ぇ」
「・・・え?」その言葉にきょとんとした顔を向ける少年。
「それに・・・な」
突然、犬士は少年の腕をとり、自分の懐・・・胸にそえた。
少年の手のひらに伝わる、暖かでほのかに柔らかな感触。
「え?・・・あ・・・????」
「分かったか・・・俺ぁ《女》だ」
少年は真っ赤になりながら、《彼女》の手をぱっと振り解く。
「え・・・!あの、その、女?なのに・・・なんで?一体そんな?なりを・・・」
仰天しているせいか、言葉が支離滅裂だ。
「ま、色々あってな・・・この格好でいたほうがそれなりに都合がいいこともあるんだ」
上着の襟を戻しながら彼女は言った。
「じゃ、じゃあその宝剣は?」いつの間にか少年の声から険しさが抜けていた。
「宝剣??」
彼女は腰に目をやる。
(そうか・・・こいつ勘違いしてるんだ)
「父ちゃんはその宝剣で一太刀で殺されたんだ!」
「こいつ・・・・か?」犬士は、腰から鞘ごと赤い太刀を抜いた。
「こいつはな、宝剣なんて代物じゃない、呪われた剣だぞ」
「・・・?呪われてる剣???」またまた仰天する少年。
「そう、抜いたら最後、俺でも始末に終えないやばい剣だ」
少年の喉の奥がごくりと鳴った。
「違う・・・のか・・・」
「悪ぃけどな・・・俺ぁお前さんの親父さんの敵でも何でもない」
「・・・・・・・」
「そういうことだ、じゃ・・・」
犬士は立ち上がって、去ろうとした瞬間・・・
どさっ
何かが倒れる音。
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「あ・・・・」気がつくと、そこは暖かな布団の中だった。
「お・・・目が覚めたか」枕もとで、彼女がささやきかけた。
「おいら・・・一体・・・?」剣の事を聞かされ、体から力が抜けて・・・以降、記憶が無い。
ぐうぅぅぅぅぅぅ・・・
少年の腹が空しく響いた。
「お前・・・どのくらい飯食って無いんだ?」呆れ顔で犬士は答えた。
「一週間・・・位、ずっと川の水だけで・・・」
「ったく・・・俺がここへ連れてこなけりゃ今ごろは飢え死にだぞ?」
「かたじけない・・・」
あの時の茶屋の娘が、食事を持って中に入ってきた。
「さぁさ、あんまり大したおかず無いけどどうぞ」
炊き立てのご飯と味噌汁と焼き魚。
その匂いを嗅いだ犬士も・・・
ぐぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・
「ぷっ、犬士様もお腹すいてたんだ」と、娘。
「あ・・・あぁ」真っ赤になって照れる犬士。
束の間、暖かな笑いが居間をつつんだ。
ご馳走様でした!」犬士と少年の、威勢のいい声が店の中に響き渡った。
「すごいわねぇ・・・あんなにあった御飯が空っぽよ」
茶店の少女が、空っぽになったおひつをのぞきこんで呆れ返っていた。
「いや、かたじけない・・・ここ数日まともに食事取ってなかったんで」
犬士が満腹になったお腹を抱えて満足げに話す。
「おいらも・・・全然だったから」そして少年も満腹そうな顔で応える。
「まぁ、何はともあれよかったよかった・・・」
そう言った少女の一瞬を犬士は見逃さなかった。
何か物憂げなその瞳を。
(怪しいな・・・)
犬士は少女に優しく問い掛ける。
「なぁ・・・こんな事言っちゃ悪いんだが・・・お前さん、何か迷い事でもあるんじゃないかい?」
「え・・・いや、そんな」少女は首を横に振る。
「そんな訳ゃないだろ、俺みたいなどこの馬の骨かも分かんねぇ奴に飯振舞うなんざ、普通はしねぇぞ」
「・・・・・・・」
「こっちにだって一宿一飯の恩ってもんがあらぁな、さぁ、全部話してくれ」
「はい・・・」
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「・・・と、こういう訳なんです・・・」行灯の薄明かりの下、少女はすすり泣きながら話していた。
「そっかぁ・・・確かにちと難儀な連中だな」
話の中身はこうだ
。
この茶屋で働いている少女・・・お千代だが、ここ最近毎日やって来るやくざ者の土地代支払いの攻勢に日夜うんざりしている、とのこと。
土地代なんて、この場所じゃあって無いようなものだ。
しかし奴らは小遣いか旅台欲しさにか、毎日やって来る始末らしい。
無論、そんな金は無いって毎日突っぱねてはいるが・・・明日、子分を連れてこの店を叩き壊すと言うのだ。
そして路頭に迷っているときに現れたのが・・・
「ごめんなさい・・・変な事頼んでしまって・・・」
犬士は千代の方にぽんと手を置く。
「よっしゃ!ここで会ったのも何かの縁だ、その連中、見事追っ払ってやろうじゃねぇの!」
「犬士様・・・」千代は犬士の袖に擦り寄る。
「ありがとう・・・ございます」
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そして夜が明けた。
連中は、いつも昼間際に来るらしいとの事。
犬士は、千代の代わりに割烹着を着て、奥の間で連中の来るのを待ち高ヲていた。
「ぷっ、犬士様、結高ィ似合いですよ」千代は笑いを噛み殺していた。
「・・・何だよそのぷって笑いは」犬士は憮然とした顔だ。
「犬士のねーちゃん・・・」後ろで少年が話し掛けた。
「おいらも戦うよ、少しは役に立てるからさ」傍らに立てかけてあった長槍をいそいそと取りだす。
「お前なぁ・・・いくさをやるわけじゃ無ぇんだ、んな長ぇ槍使ってどうする?」
「どうする・・・って」少年はぽかんと犬士を見つめる。
犬士は一回深呼吸をして、少年に語りかけた。
「万が一・・・俺がやられたら・・・そいつを使え」
「うん・・・」
その二人の目は真剣だった。
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しばらくして、いかにも、といった風体の男が3人やってきた。
ぼさぼさの髪と、巨体にして屈強な身体を見せたいが為に袖をわざわざ破いた服。
そして腰には斬馬刀とも言えそうな大きさの一振りの刀。
年は30くらいといった感じか。
左右にはまたしても下っ端といった感じ漂うひょろ長いちんぴらが二人。
「来ました・・・」千代が青ざめた顔で障子の陰から覗いている。
「よし・・・千代ちゃん、お茶の用意」割烹着に刀を携え、犬士はすっくと立ち上がった。
「おぅ!千代ちゃん!やってきたぜぇ!」やまびこの如く響き渡る声で、男はどっかと軒先の椅子に腰掛ける。
「おぅおぅ、今日までにお金出さないと、親分が承知しないでっ!」
「そうだそうだ!」
子分連中続けざまに囃し立てた・・・と思いきや。
どがん!!!!
乱魔ノ湯飲みを側に叩きつける音、反動でばしゃりと茶が男の顔にひっかかる。
「あああ熱ぇ〜っ!!!!!!!」
「お、悪ぃな、つい力加減が狂っちまってよぉ」
似合わない割烹着に身を包んだ犬士の仕業だ。
「ててっ!てめぇ〜っ!この俺に茶をひっかけるとはいい度胸しとるじゃねぇか!!!」
「親分を怒らせるとはいい度胸じゃ!」
「そうだそうだ!」親分の背中に隠れて子分も囃し立てる。
「お前ぇ、髪洗って無ぇだろ、ちょうどいい湯浴み代わりになったんじゃ無ぇかい?」
立ち上がった男共は気づいた、いつもの千代じゃないってことに。
「あん?貴様、どこの犬野郎じゃい?」
「けっ、どおりでお茶が犬臭いと思ったぜ」
「そうだそうだ!」
「くっ・・・」障子の陰から、少年は握りこぶしをわなわなと震わせていた。
(侮辱されて・・・悔しくないのかよ、犬士のねーちゃん!)
しかし当の犬士は涼しい顔だった。
「あ、千代ちゃんだけどな、今日は風邪ひぃちまってね、俺が代理ってわけ」
「何ぃ!?!?」呆気に取られる男。
その手は、腰の大きな刀に伸びる。
「へっ・・・そうか、俺様に恐れをなして、用心棒を雇ったってわけかい!」
すらりと刀を抜く男、しかしその刀身は使い古され、刃こぼれもかなり酷い
。
「てめえみたいな犬野郎斬ったって何の足しにもならんがな、少しはこの刀に血を吸わせてやらんといかん」
「どうでもいいけどよ、少しは刀の手入れしたら?」犬士がついっと切っ先をつまみあげる。
「ぅるせえ!!!!!!!!!」遂にきれた男が、大剣を振り上げた。
「きゃっ!」千代が目を覆う。
しかし・・・・まだ犬士は涼しい顔のままだ。
「どうした!抜け!貴様も刀を下げてるだろうが!!!!」
「ふぅ、仕方ないな・・・」ため息をつく犬士。
ぴん、と左手が刀の柄にかかる。
「ここで死んでも、文句は無ぇな・・・」ぼそっと犬士が答える。
いつしかその撫{槝真剣そのものになっていた。
「馬鹿なのは貴様だ!死んで文句を言えぇ!」
少年の脳裏に、ふとあの時の言葉が蘇った。
《天の神さんに誓って言うがな・・・俺ぁ今に至るまで人を殺めたことなんて無ぇ》
「犬士のねーちゃ・・・!!!」
「うおぉぉぉぉ==≠チ!!!!」男がその大剣を振り下ろす!
その刹那、犬士の柄にかかった右手が、下段から見えない速さでぶんと唸る。
大きく踏み込んだ犬士の右足が、ばん!と乾いた土煙をたてた。
勝負は一瞬のうちに終わった。
男の剣は犬士の頭のてっぺんぎりぎりで止まっていた。
そして、面食らった顔のまま、微動だにしない。
犬士は、刀を下から上へ・・・低い姿勢から振り上げたまま、ぴくりとも動かない。
「犬士様!」
「犬士のねーちゃん!!」居ても立ってもいられず、二人は浮ヨ飛び出た。
「ふぅ・・・」体勢を戻し、刀を鞘に収めた瞬間。
ぴっ・・・
「!」
「!!!」
「お、親分!」
「あぁぁお親分!」
男の服は真一文字に裂け、瞬く間に褌一丁になってしまった。
「お・・・おあぁ・・・」
犬士は男たちをきっと睨む。
「今度、この場所で一悶着起こしやがったらな、服だけじゃ済まさ無ぇからな!!!」
「は・・・はははい!!」覇気の抜けた男は、顔面蒼白になっていた。
そして、褌のまま、男たちは一目散に逃げていった・・・・・・
「てめぇにゃ褌一丁がお似合いだぜ!」犬士が背中に向かって投げかけた。
「犬士様〜ありがとうございます!」背中に抱きつく千代。
「へっ、まぁこれであいつ等一生ここへは立ち入らないぜ」
「本当にありがとう・・・犬士様・・・」
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「あ・・・犬士のねーちゃん・・・」
「ん?」
「凄かった・・・おいら、絶対にあいつを真っ二つにしてるんじゃないかって思っててさ」
くすっと犬士は微笑んだ。
「あれが、活人剣ってやつだ・・・」
「活人剣?」初めて聞く名前に、少年は不思議な顔をした。
「人を殺める剣じゃなく、活かす為の剣術さ」
犬士は、腰の刀にぽんと手を置いた。
「活かす剣・・・すごい・・・すごいや!!!」
「これで、俺が人を殺めたことが無いっていうのが分かったか?」
犬士は、あの時のような、優しい女性の顔に戻った。
「うん!」
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─翌日─
「もう・・・行ってしまわれるのですね・・・」
「仕方無ぇさ、俺は旅の帰りだったんだし、たまたまお千代ちゃんの運が良かっただけのことさ」
傍らの風呂敷包みには、団子やら食べ物やらがたっぷり入っていた。
全部千代がお礼代わりにと持たせたものだ。
「また、旅の時には立ち寄ってくださいね、美味しいお団子一杯用意しますから」
ふと見渡すと、少年がいない。
(さっき泣きべそかいてたからな・・・どっかいっちまったか?)
「あぁ、またその時には遠慮なく立ち寄らせてもらうぜ」
犬士はくるりと帰り道へ歩みを進めた。
「さようなら===!犬士様==≠チ!」
犬士は後ろでに手を振った。
千代の声が、いつまでも遠くに響き渡っていた。
「お千代ちゃん・・・いつまでも元気でな」
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程なくして、犬士の背後から何やら足音が付いて来ていた。
ぱたぱたと、何やら小さな足音が。
「犬士のねーちゃ==ん===っ!」
あの少年が走ってきた。
「お前・・・」くるりと振り向く犬士。
と、少年は突然犬士の前で座りこんだ。
「ねーちゃん!おいらを弟子にして!!!」
「へ???」いきなりの言葉に驚く。
「昨日決めたんだ!おいら、ねーちゃんの弟子になって、強くなって父ちゃんの仇を打つって!」
「・・・・・・」
「だから頼むよ!おいら手伝いだってなんでもする!寝る場所は軒下でもかまわない、だから・・・だから!」
少年はがばっと頭を下げた。
「お願い!」
「・・・・・・」犬士は、そんな少年の隣に腰を下ろした。
「ねーちゃん・・・やっぱ・・・駄目?」
「駄目とかそういう問題じゃねぇ・・・俺は弟子とかそういうもんは持たねぇ主義だ」
「・・・・・」
「ただ・・・な」
「ただ・・・?」
「俺も生まれてこのかた天涯孤独の身だ、弟が増えるのもいいかと思ってな」
「え・・・弟?」
「それに、俺の家は江戸にある、あちこち動き回るよか人の多い界隈で父ちゃんの仇の情報見つける方が都合がいいんじゃねぇか?」
「・・・・・・」
「お、おいおい何泣いてんだ?何か泣かせる様なこと言ったか?」
「ううん・・・おいら・・・嬉しくって」
「そっか・・・じゃ決まりだな」
「ありがとう・・・犬士のねーちゃん!」
「あ、言っとくけどな、これから俺の事《犬士のねーちゃん》なんてよそよそしい名で呼ぶんじゃねぇぞ」
犬士は、少年の鼻の頭にちょんと指をのせた。
「え・・・でも、じゃあ何て呼べばいいの?」
「れっきとした名前はあるぞ、俺の名前はな・・・・」
ひとまず終わり。
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